最近は、農業協同組合に対して「信用事業を分離して本来業務に集中せよ」という、いわゆる信共分離論や信用事業の信農連等への譲渡を、規制会議や政府・自民党が主張している。これらは協同組合の歴史を踏まえない議論である。

協同組合の源流の一つであるドイツのライファイゼン組合は、日本の農協が手本とした、協同組合の源流の一つであるが、それは信用事業から生まれた。
ドイツ農民が農業資材・農機具等を仕入れるために、資金が必要であったが、担保や信用力がなかったため、市中銀行から借りられず、高利貸から資金を借り入れていた。そのため、多くのドイツ農民は、金利を払えても貧しい暮らしを強いられ、重い金利負担に耐えかねて破産する者も続出した。


ライファイゼンは、無限連帯保証差し入れによって富裕層や都市銀行から借り入れた資金を組合員に貸付し、高利貸の借金を返済させた。
また、農民同志が貯金によって資金を出し、資金が必要なものに融通する仕組みである農村信用組合を考え出した。
これが協同組合金融の始まりである。
わずかでも金利を高くし、利益を得ようとする市中銀行の融資や預金の仕組みと異なり、協同組合金融は、組合員に対する融資では、最低限のコストを賄う金利以上の負担を求めない。
資金を融通すること自体が目的の融資であり、これを「相互金融」という。
また、このような相互金融の仕組みは、日本では、二宮尊徳による報徳社にもかなり類似したものが見られ、二宮尊徳の報徳思想が、日本の協同組合の思想的バックボーンとなっている。
また、ライファイゼン組合は、農業資材を組合員が安く購入するために、共同販売・共同購入を行う経済事業も兼営している。日本が手本としたドイツのライファイゼン組合は、総合事業体だったのである。

大正時代の日本は、ライファイゼン組合をモデルに、「産業組合」という協同組合を設立した。これは経済事業兼営の組合として出発した。また、産業組合信用事業のセントラルバンクに「産業組合中央金庫」も設立された。
しかし、戦時体制下では、政府の命令により、都市部の信用金庫と農村部の産業組合に強制的に分離させられ、さらに農村部の産業組合は農会という政治組織と統合させられた。
その組織が戦後、GHQの指令により、農業協同組合として再出発するのである。大正時代の産業組合中央金庫は農林中央金庫に継承された。また、戦後には労働金庫などの新たな信用事業を行う協同組合も設立されていく。

以上のように、歴史的にみれば、協同組合の源流は報徳社やライファイゼン組合であり、信用事業こそが、協同組合の本来業務といって過言ではない。これらの歴史的経過を踏まえた議論がなされないのは、まさに規制改革会議等に現場の人間が含まれていないからである。また、歴史的経緯をしっかりと勉強していない委員がメンバーとなっているからであろう。