みなさん、こんにちは。
先日、総務省の「自動車関係税制のあり方に関する検討会」にて、「軽自動車税の増税を検討すべき」との回答がなされた。自民党の内部にも軽自動車税の増税の意見があるようだが、私は、軽自動車税の増税には大反対である。
最大手や準大手の自動車メーカーの目線や大都市の目線に合わせれば「軽自動車が税金易いのはズルい」という、大手マスコミが得意の「わかりやすい図式」になるのかもしれない。しかし、もともと税金に完全に公平・公正なものはないと思う。所得税であれば、累進税率となっているが、所得の多い人には税率が一律ではないことから、過重な負担が有るとの不満がある。税金は担税力のある人が払うという原則があり、累進を認めても、その税率には不満だと言う人もいる。消費税は低所得者に負担が大きいと言う意見もあるし、複数税率等を導入すると徴税コストがかさむという問題もある。完璧な税制というものはない。だからこそ、税制を考えるときには、経済や社会に悪影響が及ばないように配慮し、調和・均衡を求める姿勢が求められると思う。そして、その均衡点をどこにするか、ということが政党や個人の社会ビジョン、理念によって異なってくるのではなかろうか。私は、政府の役割とは、市場の競争の行き過ぎ、いずみを是正すること、市場の競争が公正に行われるようなルールを作ること、市場(貨幣に交換できない)では達成できない価値を守ること(安全保障や国内の食の安全、命の安全等々)だと考えているので、税制は、できるかぎり、税金を支払う能力のある人が支払う、という原則の下、都市と地方の格差や所得の格差が拡大しないようにすべきであると考えている。
①軽自動車増税は地方住民に対する大重税となる
軽自動車を保有している人の多くは地方の住民である。東京や大阪のような大都市よりも地方都市、そして地方都市よりも農村部、山村部にいくほど、軽自動車の保有率は高くなる。東京などとことなり、地下鉄やバスなどの交通インフラの乏しい地方では、自動車は1家に1台ではなく、一人1台の「足代わり」であり、特に山村部では、消費財の購入にしても、通勤・通学にしても、自動車は必需品。そして、多くの過程では、セカンドカーは軽自動車である。加えて、農家においても、軽トラックは農作業に欠かせない車だ。軽自動車税の増税は、とりもなおさず、地方住民や農家に対する大重税であり、多くのケースにおいて、全国的に見れば、所得の低い人への増税となることから、所得格差の一層の拡大をもたらすことも懸念される。
②自動車取得税の減税は消費税にて賄うべき
福田康夫内閣の際に、道路特定財源は廃止され、自動車関係諸税による税収も一般財源に繰り入れられることになった。自動車ユーザーの税金で、大都市の地下鉄をつくるようなことも可能となった。自動車関係諸税が、道路特定財源として位置付けられ、道路やそれに関連するインフラの整備に使われるからこそ、自動車ユーザーに過重な負担がかかることについて、理屈が成り立ったのである。しかし、道路特定財源がなくなった今、一般財源を得るために、自動車ユーザーに過重な負担を課すことは不公平であることから、民主党政権において自動車関係諸税の見直しがなされることとなった。特に自動車取得税は、自動車を購入した際にかかる税金であることから消費税と性格が同じものであるうえ、自動車取得税の入った金額に消費税が課税されると言う「税金に税金がかかる」不合理なものであったことから、マニフェストにも撤廃が明記された。この自動車取得税の減収分については、もともと自動車ユーザーへの過重な負担を改めることが目的だったわけだから、一般財源にふさわしい消費税の税率UPによる増収にて対応すべきであり、1年前の民主党税調でもそのような意見が多かったのである。消費税をUPするために景気対策が必要となり、その景気対策に自動車取得税の減税が盛り込まれ、その自動車取得税の減税による地方財政の減収分を賄うために軽自動車税を増税するのは本末転倒である。ちなみに、昨年12月には、総選挙が行われていなければ自動車取得税は民主党政権下で撤廃される可能性が高かった。直島正行参議院議員も「自動車取得税が撤廃されないと言うのであれば、消費税の論議にも悪影響が出るぞ」と財務省に意見したことを覚えている。消費税が先行して増税決定となり、これから約束通り、不合理税制を改めるという段になって、突然の解散が野田首相の手によってなされ、自動車取得税は民主党政権下では撤廃できなくなってしまったのである。
③地方自治体財政の減収分については、一括交付金等で対応すべき。
自動車取得税の撤廃により、地方自治体の税収が減るので、これを賄うために軽自動車税を増税にするという意見がある。地方自治体も確かに厳しい財政運営をせまられており、地方財政に悪影響があってはならない。ゆえに、自動車取得税の撤廃分の減収については、先述のように消費税で賄い、地方自治体に対しては一括交付金の増額で対応すればよい。一括交付金の形だと、財務省に対して総務省が頭を下げる形となることから、総務省が嫌がっているのであろう。今回の答申も総務省の審議会から発せられているのはそのためである。地方自治体は、地方財政への悪影響がなければ特別な反対はないと思われる。むしろ、軽自動車税の増税は、地方住民への増税であるから、地方経済への悪影響が懸念される。
④土建業者へのバラマキに消費税を使うのはやめよう
しかし、それにしても、なぜ自民党が民主党政権において議論されていたように自動車取得税を撤廃できないのか、いくら政党が変わったとはいえ、合意がほぼできていたのに、なぜ、軽自動車税の負担を増やさなければ対応できなくなってしまったのか。それは、消費税増税分を、社会保障やこのような不合理な税制の改正に充てることなく、別のことに流用しようとしているからである。それは国土強靭化計画の名の下、再び公共事業を拡大することに消費税の増税分を使うからである。災害対策や防災などの、緊急かつ必要な事業を行うことには反対しないし、それはすべきことである。しかし、総額200兆円にものぼる国土強靭化計画の中には、高度成長の夢よもう一度の時代錯誤の大型公共事業予算も含まれている可能性が高い。また、自民党を支持する割合の高い建設業界との関係性もあると考えられる。必要な事業ならばともかく、この国は、再び、多くの国民から集めた税金を特定の業界に、不公正な形で還元する国に戻りつつある。10年後に膨大な借金が残って、国民とその時の政権担当する政党にツケをまわすのは止めて欲しい。
⑤TPPとの関連性
自動車取得税の撤廃による減収分を穴埋めするのであれば、軽自動車税以外にも財源はあるはずだ。なぜ、軽自動車税なのか。ここにTPP交渉との関連性をしてきする声が大きい。TPP交渉に先立つ本年2月22日の安倍首相の訪米の際に、日米は「自動車部門や保健部門に対する残された懸案事項ばかりでなく、その他の非関税措置に対処し、TPPの高い水準を満たすことについて作業を完了する」という文言のある共同声明を発表した。TPP及び、TPP加盟に先立つ二国間協議(TPPは既往の加盟国すべての国から同意を得なければ参加できない。この二国間協議で、米国の要求を呑まされることになる可能性が高い)にて、軽自動車税や軽自動車の規格が、米国の自動車メーカーからやり玉にあがっていることは周知の事実である。軽自動車の規格や軽自動車税がターゲットにされる可能性がある、ということを、私や私の仲間はずっと訴えてきた。TPPは加盟国に対し、関税自主権を失うだけでなく、国家の徴税権をも失うことになりかねない。11月にも米国の自動車メーカーが軽自動車の規格についてコメントを発表しているが、TPPやその二国間協議において、軽自動車税の撤廃等を求められている可能性は十分にあると考えられる。まさに「誰の方を向いて仕事をしているのか? 国民なのか、米国及び米国巨大資本なのか」等々が問われる象徴的な問題であろう。
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